▼Interview回答(2012/12/06)
Spike Chunsoft: Director/Scenario Writer: Kotaro Uchikoshi
●アメリカで999が発売したことをどう思いますか? また、善人シボウデスのことはどう思いますか?
もともと999も世界を意識して作ったタイトルでしたが、制作中は北米版の発売はまだ確定してはいませんでした。ですからAksys社にローカライズして頂いて、大変ありがたく思っています。
VLRも同様に、Aksys社の協力なくしては発売できなかったと思います。Aksys社には本当に心から感謝しています。
また999もVLRも、北米のみならず、世界中の方々から高く評価して頂いております。ぼくのTwitterアカウント(@uchikoshi)宛てには連日、ファンからのリプライがたくさん届きます。本当に本当に心の底から感謝しております。ありがとうございます!
●アメリカとヨーロッパで、善人シボウデスのタイトルはVirtue's Last Rewardになりましたが、それはどうしてですか?
タイトルについて、当初Aksys社からは「邦題を直訳した"Good People Die"ではどうか?」との提案を頂いていました。しかしこれではちょっと直球すぎます。
邦題の「善人シボウデス」には「善人は死んでしまう」という意味と「(私は)善人を志望する」という2つの意味があります。そこでAksys社に「北米でももう少しひねりの利いたタイトルにしてほしい」と依頼したのです。
そうしてタイトル候補として挙がってきたのが「等々でした。その後、検討に検討を重ねた結果、現在の「Virtue's Last Reward」を採用することになったのです。
理由はこうです。まず英語圏には「Virtue is its own reward.(徳はそれ自体が報いである)」ということわざがあるそうです。また「go to one's final(last) reward」は「死ぬ」を婉曲的に表現する熟語だと聞いています。
つまり「Virtue's Last Reward」には「美徳は最後の報酬」という意味と「美徳は最期の報酬=死である」という2つの意味があることになります。
このため、邦題の「善人シボウデス」と最も近いニュアンスとなることから、このタイトルを選びました。
●極限脱出シリーズの新しいエピソードが開発されていますが、発売日はいつですか? それは最後のエピソードですか?
ここで隠していても仕方がないので本当のことを言います。
まずVLRが、多くのレビューサイトや、たくさんのファンの方々から、高く評価され、支持されているのは事実です。本当にありがたく思っています。
ただこの作品は現在のところ、必ずしも商業的に成功しているとは言えません。端的に言うなら、皆さんが思っているほど売れてはいないということです。(もちろん今後、年末~年始にかけて本数が伸びていく可能性は十分あります。ただ今のところは......という意味です)
さらにこの際だから率直に言ってしまいましょう。極限脱出シリーズは、実は赤字プロジェクトです。収益よりも制作費のほうが高くついています。
したがって経営陣は、3作目を作ることに対して、どちらかと言えば消極的です。999やVLRがどれだけ高く評価されようとも、どれだけ多くの賞を獲得しようとも、赤字になるとわかっているプロジェクトを経営陣も株主も承認してはくれません。しごくまっとうな判断です。
ただ誤解しないでください。「3作目は作らない」ということでは決してありません。3作目は絶対に作りますし、なんらかの形で必ずリリースします! 経営陣も、みんながみんなネガティブというわけではなく「絶対に作るべきだ」と言ってくださる方も中にはいます。
しかしその際「どのぐらいの予算規模で作るのか」というのが問題になってきます。経営陣としては、今回のVLRの売上本数を見て「次回作は何本ぐらいだろう」と予測を立てます。3作目は、その本数で採算が取れるぐらいの予算規模で作らなければならないわけです。
もしもこのまま、北米や欧州での売上本数が伸び悩めば、今までの予算の半分以下で作品を作らなければなりません。必然的に、脱出パートは短くなり、舞台は狭くなり、キャラの数も少なくせざるをえないでしょう。もしかしたらプラットフォームもiPhoneやiPadに変えなければならないかもしれません。
しかし北米や欧州で、少なくとも今の倍、売れてくれれば、話は変わってきます。今まで通り十分な予算を得て3作目を作ることが可能です。
なので、今この記事を読んでいる999やVLRのファンに方には、ぜひともご協力頂きたいのです。すでに買った方が2本目を購入する必要はまったくありません。その好意は大変ありがたいですが、同じ方が2本目3本目を買ってもあまり意味はないのです。なぜなら、くちこみで広がっていかないからです。
それよりもむしろ、友人・知人に勧めてください。そうすれば、その友人や知人がさらに友人や知人に勧めることによって、作品が広がっていくことになります。
ちなみにぼくは私利私欲のために、このようなことを言っているのではありません。北米版や欧州版が売れても、ぼく個人のところにお金が入ってくることはないのです。
ぼくはただ今まで通りのクオリティで3作目が作りたいだけなのです。そのためには経営陣を説得するための材料がなければなりません。「北米や欧州でこんなにたくさん売れました!」という実績が、数字が、どうしても必要なのです。
ですから、繰り返しになりますが、ぜひまわりの方に勧めて頂けると助かります。ご理解ご協力のほど、よろしくお願い致します。
●打越さんのゲームで、不信の懸濁液は強いですね。リミットはどこだと思いますか?
基本的に、良くも悪くも人は人を信じるように出来ているので、特にリミットのようなものはないのではないでしょうか。
●ゲームでアイスナインのことがよく話されていますが、ストーリーでは全く使われていません。次のエピソードで変わりますか?
VLRでは「アリスの血液中の水分はIce9で構成されている」という設定にしようかとも思ったのですが、SF色が強すぎてしまうために断念しました。他の設定だけでも十分SF色が濃いものになっているので、そこにIce9を加えると、もはやハードSFの領域になってしまって、一般的なユーザーさんが置いてけぼりになってしまうと思ったからです。
そんなわけで、おそらく次のエピソードでもIce9がリアルなものとして登場することはないと思います。
●善人シボウデスで、あかねはニルスが着ていたローブを着ていますが、あかねは「Free The Soul」のメンバーですか?
よく聞かれる質問ですが、答えはNOです。茜はとある事情から、あの2029年4月13日のイベントの直前に、Free The Soulの儀式服を着ている必要があったのです。
●Twitterで、シグマの「?」はブリックウィンケルと説明されていましたが、Ever17と同じ事ですか?そうすると、シグマはプレイヤーですか?
すみません。ぼくの英語が上手くないのと、Twitterに文字数制限があることから、誤解を招く表現をしてしまったかもしれません。
まず根本的な決まりごととして、Ever17と、ZERO ESCAPEシリーズはまったく別の作品ですから、正確には、ZERO ESCAPEシリーズとブリックヴィンケル(BW)には一切なんの関係もないという点を強調しておきたいと思います。
ただ作者(要するに私)は同じですから、ひとつの評論として共通項を見出すことはできるかもしれません。
その上であえてお答えするなら「形態形成場=BW=プレイヤー」と解釈することも可能でしょう。
Ever17では、プレイヤー自身がBWとして作品に介入しましたが
VLRでは、シグマの意識が「形態形成場=BW=プレイヤー」を介して、別の歴史にいる自分自身の中に飛び込みます。図にすると以下のようになります(固定ピッチフォントでご確認ください)
【形態形成場=BW=プレイヤー】
/ \
/ \
シ シ
グ グ
マ マ
A B
●アートブックで、西村さんはファイのことを「見た目はサンタ子ちゃんで!」と仰っていましたが、ファイとサンタはどんな関係がありますか?
うーん...ご想像にお任せしたいところなのですが、本当のことを言うと、実はなんの関係もありません(笑)ファイは別の人物と密接なつながりがあります。
●善人シボウデスは3DSとPSVitaのどちらが好きですか?
もちろんどちらも好きですよ。もしも仮に「どちらが好き」というのがあったとしても、立場上それは言えないです(笑)
3DSは2画面ですからパズルを解いたり、メモを確認したりするときに使い勝手がいいですし、立体視による臨場感もあります。
対してVITAは、絵やフォントがきれいですし、音のクオリティも高く、画面も大きいです。
どちらを好まれるかはプレイヤーしだいだと思います。
●私の一番好きなキャラクターはゼロ3世です。打越さんの好きなキャラクターは誰ですか?
ゼロ3世も捨てがたいですが、倉式茜ですかね。彼女は非常に深い業を背負った人物です。3作目は彼女の悲哀がテーマのひとつとなるでしょう。
●善人シボウデスのシュレーディンガーの猫はヒュー・エヴェレット3世理論みたいですね。「3世」はゼロ3世と同じですか?
VLRの兎がゼロ3世なのは、3作目でゼロ2世が登場するからです。歴史的な時系列としては「1作目→3作目→2作目」となるので......。
●善人シボウデスはとても有名な声優が起用されていますが、打越さんが決めた方達ですか?
えーと、これは日本語版の声優さんということでいいですか? だとしたら、ぼくとプロデューサーで決めたものです。
最近のゲームやアニメでは、売れっ子の(流行りの)声優さんを起用するのが普通だと思いますが、ぼくらは声優さんのサンプルボイスをひとつずつ丁寧にじっくりと聞き比べ、最も役に適している方を厳選してキャスティングしました。
その結果、気がつくと意図せず、大物の声優さんが揃ってしまったのです。
●OVAで、シグマの声優とゲームのKの声優は違います。それはどうしてですか?
い、いや、同じにしたらバレちゃうじゃないですか......(笑)
基本的にOVAは「シグマの主観」を基にして描かれたものです。だから彼は施設の中でも若い容姿のままで登場しています。
声も同じです。ほら、レコーダーに録音した自分の声って、まるで別人のもののように聞こえるでしょう? そう解釈して頂ければと思います。
●極限脱出シリーズは、他のメディアで見たいですか?
他のメディアというのは、たとえばアニメや映画のことでしょうか? だとしたら、もちろん見たいです。
どなたか映画化してくださる方はいないでしょうか? メイントリックの部分をどうすればいいのかについては、ぼくはひとつアイディアを持っています。もし興味がおありの方はTwitterにて @uchikoshi 宛てにご連絡ください!
●シグマは善人シボウデスの女の子達を水着で見たタイムラインがありますか?
(笑)うーん、どうでしょう? アリスや四葉なんて、ほとんど水着を着てるようなものだと思いますが......。
●新しいエピソードを作り終えたら、何がしたいですか? 他のゲームに興味はありますか? 例えばWii Uのことなど。
Wii Uにももちろん興味はありますが、プラットフォームを問わず、もっと短期間でいろんな物語を発表できる場を構築したいですね。
●ADVとか、ビジュアルノベルとか、他のゲームタイプが作りたいですか?
アクションADVを、死ぬまでに1本は作りたいと思っています。純粋なADV、ビジュアルノベルも作りたいですが、今のままではなかなか売れないので正直厳しいと思います。
ただ「ビジュアルノベルをもっと広く普及させる方法」については考えているので、そちらの路線が成功するといいのですが......。
●アメリカとヨーロッパのゲームはしますか? 何のシリーズが好きですか?
すみません......。北米、欧州に限らず、日本のゲームも時間がなくてなかなかできない状況です。
昔でいうと「トゥームレイダーシリーズ」は大好きでした。1や2は攻略本なしで自力でクリアしました。ある箇所で行き詰って、3日ぐらい悩みに悩んで「これだ!」という解決策を見つけたときの快感といったらもう、それはそれは、子孫を反映させるための営みを超えるぐらいの超絶的な快感でした。
もう一度経験したいですが、今はネットが発達してしまった弊害で、どうすれば解けるのか、検索すればすぐにわかってしまうのが難点ですよね。
●善人シボウデスは打越さんのフランスで初めて発売したゲームですね。フランスのことは知っていますか? 行ったことはありますか?
もちろん知っていますし、行ったこともあります。1992年の9月のことです。当時ぼくは18歳で、欧州をひとり旅してまわっていました。
フランスで訪れたのは、ニース、マルセイユ、トゥールーズ、パリです。滞在していたのはそれぞれ1日ずつですが......。
確かニースかマルセイユのどちらかにヌーディストビーチがあって(そうとは知らずにその海岸を訪れてしまったのですが)18歳のぼくにとってはあまりにも刺激的でドキドキしたことを覚えています。
パリでは深夜の街をひとりで徘徊。セーヌ川沿いを歩いたり、ライトアップされたノートルダム大聖堂を見上げたり、ポンヌフ橋でたたずんだりしていました。深夜なので、人がほとんどいなくて、それがとても幻想的だったのをよく覚えています。
ルーヴル美術館はちょうど休館日かなにかで入れなかったんですよね。今度訪れたときには長期間滞在して、館内を全部まわってみたいと思っています。
●今しているゲームは何ですか?
今は特になにもゲームはしていないです。映画をよく観ています。
●極限脱出で猫がいっぱいいますね。猫は好きですか?
にゃー。
●このインタビューを読んでいる人達はおそらく打越さんの作ったゲームはプレイしたことがありません。この人達に言いたいことはありますか?
まずは999とVLRをぜひプレイしてみてください。内容についてはAxelさんの記事を参考にして頂ければと思います。VLRは「裏切り」をテーマにしたゲームですが、決してあなたを裏切ることはないでしょう。よろしくお願い致します!